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TOP教養学校運営コロナ禍、緊急対応に留まらない授業の質向上を志向した教育ICT活用実践

コロナ禍、緊急対応に留まらない授業の質向上を志向した教育ICT活用実践

2022.05.11 (最終更新:2024.03.27) 学校運営 教務情報

連載麻生塾に聞く!教育ICT活用

九州最大級の総合専門学校グループ「学校法人 麻生塾」の教育ICT活用について、牽引役である若山先生・藤澤先生にお聞きする注目の連載。「コロナ禍の緊急対応」に留まらない中長期的な取り組みの展望から、大きな組織での情報共有とプロジェクト推進の秘訣、すぐに真似したいテクニックまで、貴重な知見を惜しみなくお伝えします。

▼ウイナレッジ編集部より

麻生塾グループの教育ICT活用のキーパーソンお二人をお迎えしてお届けする連載「麻生塾に聞く!教育ICT活用」。

若山先生の第1回では、2013年頃からの教育ICT活用の取り組みについてお聞きしました。

第2回となる今回の記事では、2020年、コロナ禍を迎え、それまでに培ったものを現場でフル活用した奮闘の記録をお伝えいただきます。

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学びを止めないために――遠隔授業支援をミッションに異動

2020年2月、新型コロナウイルス感染症の世界的流行を受け、感染防止のためにありとあらゆるものの接触を減らした結果、世界の全てが止まってしまいました。

それは教育界も例外ではなく、全国のあらゆる学校が臨時休校し、学校が止まりました。
しかし、学校が止まっても学びを止めないために、麻生塾全体として「遠隔」で授業をすることに。
世の中では遠隔授業の他にも「遠隔会議」「遠隔営業」「遠隔ワーク」「遠隔面接」「遠隔飲み会」「遠隔運動会」「遠隔留学」……などなど、「遠隔○○」が一気に普及しました。

その頃、私はまだ株式会社麻生キャリアサポートに所属していましたが、それまでの動画への取り組みを評価され、遠隔授業を支援するために教育推進グループへ異動となりました。

初めまして365。

麻生塾は元々Office 365(現「Microsoft 365」)サービスを利用していたので、遠隔授業で使うメインのツールは「Teams」でした。
しかし、私にとっては「初めましてTeams」「初めましてForms」「初めましてOffice 365」という状態でした。
ただ、アプリケーションを使うのは嫌いではなかったので、あれこれ触っている内に

Teamsがコミュニケーションツールで、えーっと、Streamが動画配信、あ、YouTubeみたいなものね、で、Formsがー、Googleフォームみたいなやつね、で、これらがOffice 365っていうサービスの中で動いているね。

……と、機能や挙動は何となく分かってきました。
そんな中、他の先生方から質問が来ます。

教員A:○○が分かりません。どうしたら良いですか?
若山 :えーっと、ちょっと待ってください、調べます(Googleで)。

教員B:効率的な活用方法考えて。
若山 :えーっと…考えてみます。

なんとか調べたり考えたり試したりして「遠隔授業の支援」という使命を全うしようとしますが、困ったことが。
現場で使うイメージが全く湧かないのです。
クラスを持っておらず、授業も持っていなかったので、仮想学生のアカウントを3つほど準備してもらって仮想クラスを作ってはみたものの、やっぱりイメージが湧かない。
遠隔授業での活用方法を考えたところで、机上の空論でしかなかったのです。

現場を知るには……

ある日の会議で、同僚の先生が

Teamsでの授業でも、その前後何かと準備があって結構時間がないんですよ。

と発言しました。
会議後にその一言をふと思い返し、

やっぱり現場は色々あるんだなぁ。
ん?授業したら分かるかな?
どこかで授業させてもらえないかな?

と思い至って、その日の内に上司に相談。
上司から、古巣の「麻生公務員専門学校 福岡校」に打診してもらいました。
結果、期中にもかかわらず授業をさせてもらえることになりました。

対象 2年課程の1年生
内容 数的推理・判断推理
時期 一通りインプットを終え、アウトプットへ移行

授業日まで1ヵ月ちょっと。
約3年ぶりの本格授業でしたが、Teams、Stream、Formsの基本機能は分かっていましたし、構想もありました。
また、根拠のない自信も。

構想実現に向けた授業準備

授業の場は与えられました。
後は、授業条件に対し、「1,300本の動画」「Teams」「Stream」「Forms」「20,000問の過去問データベース」をどう組み合わせるか。
そもそも問題演習を考える上で大事にしていることは以下の3つです。

  • 過去の試験問題をひたすら解く
  • 何度も(※同じ問題でもOK)
  • 「問題を解く→フィードバック(正誤判定・解説)」を繰り返す

そして、今回は「一通りインプットを終え、アウトプットへ移行」という時期での授業。
学生は以下のような層に分かれた状態にあると考えました。

  • インプットが十分理解できていて、応用問題に進みたい「上位層
  • インプットをもう一度自分で復習したい「中位層
  • 教員によるインプットからやり直したい「下位層

どの層の学生も十分な問題演習や学習が行えるよう、以下を考慮しました。

  • 学生の理解度(自己判断)に合わせて演習が可能
  • 学生主体
  • 「問題を解くフィードバック」をなるべく即時
  • Office 365サービス内

まず、「学生の理解度(自己判断)に合わせ」るため、以下のような授業構成を考えました。

毎回の授業テーマについて、学生に「得意」「普通」「苦手」を自己判断してもらい、それに応じた学習活動を自分で決めてもらうという授業構成です。
また、学習指導法も「下位層(自己判断:苦手)」と「中・上位層(自己判断:得意・普通)」で分けました。

■「下位層」への学習指導法

※実際には感染対策のため全て遠隔授業形式となりましたが、教室で授業をできれば教室前方に集まってもらい板書講義を行う予定でした。

教員による双方向講義を実施。
教員側も学生側も「下位層の集合」を前提としているので、ゆっくり話す質問も遠慮なくできる

■「中・上位層」への学習指導法

Forms、Streamで問題演習
Formsの採点機能、Formsの「選択肢に対するフィードバック設定」機能とStreamの組み合わせで、回答後の即時フィードバックを実現。
上位層のために、テキストに掲載していない少し難しめの設問もFormsに格納。
これで、「解く設問を選ぶ→設問解答→即時フィードバック→次の設問を選ぶ」が可能となり、学生主体の問題演習が行える環境が整いました。

FormsやStreamの準備自体は、データベースからのコピペや動画のアップロードという単純作業。
Streamの権限設定やFormsのTeamsへの配置の仕方など、工夫の必要なこともありましたが、2~3週間ほどで約400問分のデジタル化した教材を準備できました。
短期間で準備ができたのは、動画やデータベースという素材があったことに加え、2013~2014年に作成した「QRコードテキスト」で学習動線について一度考えていたことも大きかったと思います。
数年来の取り組み全てが繋がったような感じでした。

▼コロナ禍以前の若山先生の取り組みについては前回の記事でご紹介しています。
【若山先生編①】始まりはコロナ禍のはるか以前。授業と教材のデジタル化を手探りで実践した足跡

「遠隔授業では学生の理解度が把握できない」? そもそも理解度とは?

授業構成の選択に際しては、学生に自身の理解度を自己判断してもらいました。
では、教員側が学生の理解度を把握、評価するには?

遠隔授業では表情が見えないので、理解度の把握ができない(※麻生塾ではプライバシー保護の観点からカメラオフを基本にしています)」と多くの先生が言います。
しかし、学生の姿が見えたとして、「うんうん」と頷いていたら理解ができていると判断していいのでしょうか。
教員はそもそも何をどう見て学生の理解度を判断しているのか」が分かれば、遠隔でも理解度を把握しながら授業が進められるのではないかと思いました。

公務員試験対策の場合は、やはり「設問を正解できるかどうか」が判断のもとになります。
しかし、公務員試験対策に限らず、理解しているかどうかを確認する時には、以下のようなやり取りをしませんか?

教員発言①:この内容分かった?
学生発言①:はい、分かりました。
教員発言②:じゃ、××××の○○○○は何?
学生発言②:それは△△△です。
教員発言③:正解!そこは分かってるみたいだね。じゃ、□□□□やってみて。
学生発言③:(……実演中……)。どうですか?
教員発言④:うん、大体良いね。▽▽▽▽の部分は▷▷▷▷にするともっと良くなるね。

このやりとりで、教員は発言②③で「質問」し、学生は発言②③で質問に「回答」しています。
教員の「質問」は、このように口頭で尋ねる場合もあれば、クイズや確認テストがその役割を果たすこともあります。
教員はこの「回答」の正しさを見て理解度を判断しているのではないかと考えました。
少なくとも、私自身を振り返ると、成績表や点数表、正答率などを見て判断していました。

つまるところ「理解度」とは「再現度」、「教員の説明や実演をどれだけ再現できるか」から測れるようだと考えました。
理解できていなければ、たまたま一度は再現出来たとしてもその後が続かず再現度が低くなります。
この再現度を定量的に測れる物差し、そして測ったものの視覚化装置、この2つがあれば遠隔でも理解度を把握しながら授業が進行できるし、教室授業でも活用できそうです。
それぞれ以下のように準備し、算段がつきました。

再現度を定量的に測れる物差し
公務員試験の出題傾向に沿った過去問の準備。
過去問データベースを使って設問分類ごとに集計
これにより出題傾向が視覚化され把握できる。

測ったものの視覚化装置
Office365内のRPAアプリケーション「Power Automate」を使い、Formsでの回答をExcelに自動転記し関数やグラフで処理
リアルタイムかつ動的な成績表ができる。

📚今一度確認したいポイント📚
理解度って何だろう?

いよいよ授業での実践 感触は……

Formsへの設問格納、Streamへの動画アップロード、Teamsへの割り当て、理解度確認装置の作成といった準備が2~3週間で完了。
感染対策のため、授業は遠隔で行うことに正式に決まりました。
2、3年ぶりの本格授業実施や未経験の授業形式に対して不安と根拠のない自信が混在し、不思議と楽しみでした。

いざ本番。
Teamsも会議などでは使っていたので、特にトラブルなく授業開始できました。
授業趣旨を説明し、学生それぞれに授業テーマについて得意・普通・苦手を決めてもらい、それに応じた行動をとってもらいます。
Teamsのチャネル移動も特に混乱なく完了。私は「苦手」を選んだ学生に対する基礎講義を開始します。
「得意」「普通」を選んだ学生は別チャネルで黙々と演習し、解説動画を視聴しているので、私は目の前の「苦手」学生に合わせ、ゆっくりとした説明や質問に集中
学生も満足そうです。
基礎講義を終えると、「苦手」学生にも授業終了まで少し演習してもらい、時間が来たらクラス全体で少し振り返りをして授業終了。

授業趣旨の説明スライド

「得意」「普通」学生とは特段コミュニケーションは発生していません。
もちろん「分からないところがあればメッセージしてほしい」とは伝えていますが、分からない時になるべく自己解決できるよう、学習動線が「個別」になるよう解説動画を設置してあるので、そうそう質問も出て来ません。
学生にも前もって授業趣旨を伝えているので、「得意」「普通」学生はそれを承知で演習に取り組んでいるはず……ですが、やはり初めのうちは不安でした。

不安なら、学生の声を聞こう

いつまでも不安を抱えていても仕方がありません。
まず今回の授業実施の目的を振り返ると、次の二つでした。

  • 机上では分からないことを授業現場で体験する
  • 学習動線を「個別」にしてみるとどうなのかを検証する

一つ目はまだその最中ですが、二つ目については、少なくとも私自身(教員側)は説明対象が絞れる分内容に集中できました。
では学生はどうか
この目的をどれだけ達成できたかを確かめるアンケートを取ろうと思い立ち、準備しました。
アンケート内容は以下の通り。

【設問1】
今回の授業方法(個別対応学習)は、従来の授業方法(一斉授業)と比べ、いかがでしたか?

【評価1】
1点 従来の方が良い  ~  6点 今回の方が良い

【設問2】
そのように評価した理由は何ですか?

【評価2】
自由記述

結果、約85%の学生が好意的に評価してくれました。
実施する前は、「成績中位を下回る層が不満を持つかもしれない」と想定していましたが、85%ということは、その層も好意的に受け入れてくれたのではないかと考えています。
とはいえ学内定期試験の成績と紐づけると、「アンケートの点数が高い(今回の授業形式に満足している)学生ほど定期試験の成績も高い」傾向があるようには見えます。

自由記述を見ていくと、もう少し何が評価されているのか見えてきました。
好評価の主な理由は「自分のペースで勉強できる」「分からないところをそのままにしてしまうことがない」など。
低評価の理由は、あまりまとまった傾向はなく、慣れ、他者への気遣い好き、といった内容でした。
また、1点の中に上位層が数名含まれており、「どういう形式でも関係ない」という理由がありました。

アンケート結果を見る限り、2013年から始めた「学習動線の弱さを克服するための動画・教材作成」が学生にとって良いものになったといえるのではないかと一人安堵したと同時に、少しだけ自信につながりました。

2年次も受け持つことに 学生が目標達成できるようさらに工夫を

ここで授業を受け持った学生さんの2年次(就職学年)の授業も担当することになりました。
同じ演習授業ですが、本番直前の時期なので、「学習動線の個別化」の軸は変えずに授業を設計しなおすことにしました。
次回の記事では、2年次、公務員試験直前期の授業での実践とその結果についてお伝えします。

▼ウイナレッジ編集部より

若山先生の第2回では、コロナ禍という未曽有の事態を迎え、それまでに培ってきたデジタル教材・オンライン教育の素材や構想を現場で活用、実践した経緯を振り返っていただきました。

コロナ禍初期の学校現場では、「とにかくなんとかしなければ」とドタバタで対応せざるをえないケースが多かったと思いますが、若山先生の場合、すでにデータベースやデジタル教材を準備されていたことに加え、デジタルの強みを生かして学生の理解度ごとに学習動線を最適化するという構想をお持ちであったことで、いわば「ピンチをチャンスに」できたのですね。

次回は現場での実践の続編で、公務員試験合格という学生の目標達成を遂げるためのさらなる工夫についてお伝えいただきます。
お楽しみに!

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この記事を書いた人
若山 祐紀憲

若山 祐紀憲

学校法人麻生塾 コンテンツ推進部
麻生塾における教育ICT活用の第一人者。
専門は、公務員試験における「判断推理」「数的推理」「資料解釈」など。
麻生公務員専門学校福岡校にて教鞭をとっていたころ、面接指導がきっかけでYouTubeなどの映像配信プラットフォームに関心を持ちはじめる。2013年にホームビデオカメラから始まった授業・教材の映像化は徐々に成果につながり、株式会社麻生キャリアサポートでのICT活用教材の作成・販売へと活躍の場が広がっていく。
2020年、コロナ禍に入ると、グループ内の「遠隔授業の支援」を使命に学校法人麻生塾 教育推進部へ異動。長年の映像教育の経験を活かし、同塾内のICT教育活用を推進するとともに、自らも教鞭をとり、ICT教育活用の実践と仕組み作りに邁進。
2022年4月より現職。麻生塾グループ開発の教育プラットフォーム「Teachare」の開発・普及に取り組む。

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