連載麻生塾に聞く!教育ICT活用
九州最大級の総合専門学校グループ「学校法人 麻生塾」の教育ICT活用について、牽引役である若山先生・藤澤先生にお聞きする注目の連載。「コロナ禍の緊急対応」に留まらない中長期的な取り組みの展望から、大きな組織での情報共有とプロジェクト推進の秘訣、すぐに真似したいテクニックまで、貴重な知見を惜しみなくお伝えします。
▼ウイナレッジ編集部より
麻生塾グループの教育ICT活用のキーパーソンお二人をお迎えしてお届けする連載「麻生塾に聞く!教育ICT活用」。
藤澤先生の第1回では、コロナ禍、初めての映像授業で味わった挫折から「教師の立ち位置は変わり、教師個人の伝える力を磨くべき時が来た」ことを悟るまでの経緯について、第2回では「教師個人の伝える力」を磨く3つの手法について、第3回ではこれからの時代の先生に求められる「映像授業力」についてお伝えいただきました。
第4回となる今回は、藤澤先生が2年間様々な映像教材を作成した中で見出した「授業目的に合った映像教材の形式の選び方」、さらにその映像を作成するのに必要な機材についてお伝えいただきます。
「映像教材をがんばってみたいけど、映像作成の経験はないし、何を用意してどんなものを作ったらいいか……」という方は必見です!
目次
映像教材をどう使い分ける?
新型コロナウイルス感染症の流行以降、教育現場では「遠隔授業」や「映像教材」といった「画面越しの授業」が増えていることはみなさんご承知のことと思います。
日本中、世界中がこの「画面越しの授業」の利便性に気づいた今、教師には「映像授業力」が必須となります。
そして、「映像教材」を上手く使える学校、戦略的に使える学校だけが生き残る未来もあるかもしれません。
ここまでの記事では、「教師個人の伝える力」や「映像授業力」を向上するためのテクニックをご紹介しました。
今回は、実際に映像の活用度を高めよう、映像のクオリティを高めようとしている方向けに、さらに実践的な内容として
どんな授業(場面)にどんな映像教材が適切か
私が実際に使用している機材
をご紹介いたします。
私はコロナ禍以降、様々な種類の動画を作成して実験してまいりました。
その中で見えてきた場面ごとの動画の使い分けやそれに必要な機材をご説明いたします。
遠隔授業は「事前録画」がマスト
映像を使う場面として一番イメージしやすい「遠隔授業」。
遠隔授業では「事前録画した映像を使うこと」が前提だということをまずお伝えしたいと思います。
私は2020年以降、様々な実験と経験をもとに、遠隔授業では「生中継」ではなく「事前録画の映像」が良いと結論付けました。
遠隔授業では「生中継」による授業を実施している方が多いと思います。
しかし、本来、生中継はものすごくハードルが高いものです。
話のプロであるタレントさんでも「生放送はすごく緊張する」と言うほどですから、かなり難しいのです。
学生の興味を持続させ、必要な情報を正確に伝えるためにも、映像を利用する場合は「事前録画」したものを利用しましょう。
できあがった映像教材は、遠隔授業以外でも利用可能となります。
映像教材は「同じことを何度も話さなくて良い(教師側メリット)」「自分のペースで見返せる(学生側メリット)」など非常に便利な面があるため、対面授業や、全体に周知したい情報を伝える場面にも最適です。
ぜひ様々な内容を映像化し、再利用可能にしていきましょう。
「質重視」「量重視」で使い分ける映像形式
映像教材の作成、特に事前録画・編集となると、それなりの労力がかかります。
しかし、日々の授業の合間になかなか時間は取れない。
「質」を取るか「量」を取るかの議論になるものです。
今回は、私が実践している「質重視の映像」と「量重視の映像」の使い分けをご紹介します。
【質を重視する】感情に訴え、行動を促す場面
授業などで学生に話をするとき、「感情」に訴えかける場面や「行動」を促すような場面があります。
例えば、初回の授業で未来を想像させてモチベーションを上げる場面、マインドを育むような授業・話をする場面など、聴き手の感情を動かさなければならないシーンが少なからずあると思います。
そのような場面では「質」を重視する必要があります。
感情を動かしたいときに意識しなければならないのは「メラビアンの法則」です。
メラビアンの法則によると、人間は話を聞くときに
- 言語(言葉の内容・セリフ):7%
- 聴覚(声・抑揚・間):38%
- 視覚(表情、ジェスチャー、図):55%
という割合で情報を受け取ります。
つまり、人は「視覚」メインで話を聞いているということ。
したがって、特に感情を動かしたいという場面では「視覚」を刺激することを意識しましょう。
具体的には、「姿を現すプレゼン形式」の動画を私は利用しています。
プレゼン形式動画のイメージ
撮影方法
この方式の動画を作成するには、グリーンバックの前で話をして、背景やプレゼン資料を合成することで作成します。
動画を撮影後、動画編集ソフトの機能で「クロマキー合成」をすることで動画を仕上げていきます。
私は動画編集に「Adobe Premiere Pro」を利用していますが、他の編集ソフトでも問題ありません。
現在では「Davinci Resolve」などの無料の動画編集ソフトでも「クロマキー合成」は可能です。
また、この動画を作成するには、下記の様な機材が必要です。
私が利用している機種もご紹介します。
- グリーンバック(背景合成用):izumi CH-1800
- カメラ:SONY FDR-AX60-B
- ピンマイク:audio-technica AT831cH
- カンペ用モニタ:GeChic ON-LAP1101
- 照明:Neewer Advanced 2.4G 660 LED
【量を重視する】日々の授業動画
毎日の授業で利用する動画の場合、「質」を重視しすぎては時間がいくらあっても足りないでしょう。
情報を伝えることがメインであれば、時間をかけた編集やこだわりの撮影は必要ありません。
必要なものは「PowerPoint」だけです。
PowerPointには、スライドのタイミング、音声、レーザーポインタの動きを録画する「スライドショーの記録」という機能があります。
スライドショーを開始して、スライドを進めながら話をするだけで動画が作成できます。
撮影中にどういう点に気を付けて話をすべきかについては、以前の記事(第3回)にて紹介しています。
「音声の質」を軽視してはいけない
動画作成の際、視覚情報とともに気を付けていただきたいのが「音声の明瞭さ」です。
音声が聞きづらいことは視聴者にとって大きなストレスとなります。
何を言っているかを聞き取ることに神経を集中させてしまい、「理解」まで及ばないことになります。
そして、映像を見たときの疲労感も増してしまいます。
そんな疲れる映像は「見たくない」と思われても仕方ありません。
撮影する前には、音声が明瞭で聞き取りやすいかを確認することをおススメします。
ちなみに私が利用しているマイクは以下のモノです。
- EPOS/ゼンハイザー PC8USB
音が明瞭で、ノイズも入りにくいのでおススメです。
説明は「映像内の過去の自分」に任せる
2020年の春には想像さえしなかった、教師が映像を作るという状況が今では当たり前になりつつあります。
当初は「映像では伝えたいことが伝わらない」と感じていた方が多かったでしょうし、今もそうかもしれません。
しかし、私がこの2年間、映像授業力を鍛えて分かったことは「映像でも充分に伝わる」ということ。
さらに言うと「映像の方が伝わる」ということです。
私達教師は、目の前にいる学生に、生で話をすることが仕事であり、それが最善の方法だと信じてきました。
ですが、生で話すということは、同じ話を何度もすることになります。
クラス数、学生数が多いほど繰り返す回数も増えるでしょう。
このデジタル全盛の時代に、その労力は必要なのでしょうか。
映像であれば、「過去の自分」が疲れもせず、同じテンションで話し続けてくれます。
単調な説明作業を「過去の自分」が担ってくれれば、新たな時間が生まれます。
その時間で学生を観察することもできます。今までやれなかった作業をすることもできます。
そして、さらなる映像授業力向上に時間を割くことができます。
映像授業力を鍛えれば、「生で話す」以上に伝えること、感情を動かすことが可能です。
実際「テレビ通販を見て最初は欲しくなかった商品を買いたくなった」「気持ちを鼓舞するようなYouTubeを見てやる気が出た」というような、映像で心が動かされた経験が一度はあるはずです。
「映像では無理」と考えるのではなく、「映像でも伝わるにはどうすればいいか」ということを考え、技術を高め続けていければ、「映像」はあなたの大きな武器になることでしょう。
▼ウイナレッジ編集部より
藤澤先生の第4回は、授業目的に合った映像教材の形式の考え方とともに藤澤先生が実際にお使いの機材についてもご紹介いただきました。
ここまでの連載で「映像がんばろうかな」という意欲の湧いてきた方には、ぜひ今回の記事を参考に実践へ踏み出していただきたいと思います。
次回はいよいよ藤澤先生記事のラスト。
これまでのまとめとして、藤澤先生の捉えたコロナ禍の教育現場、教育の本質、そして教育の未来展望についてお話しいただきます。お楽しみに!
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藤澤 昌聡
麻生情報ビジネス専門学校 教務部 システム開発分野 常任講師
麻生塾における映像コンテンツ授業の伝道師。
専門は、プログラミング、情報処理、ITビジネス。
2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大により突如やることになった初の遠隔授業で「(おもしろいと思っていた)自分の授業が、動画で見るに堪えない」ことにショックを受ける。同時に、教師の立ち位置が変わっていく「ゲームチェンジ」を予想。急遽、自身の教育力の見直しと研鑽に取り組み始め、かねてから関心のあった「教育をエンターテイメントに」を追求している。そのロールモデルは、オリエンタルラジオの中田敦彦氏。
さらに同塾内の教師陣に向けた学内動画チャンネル「おたがいさまチャンネル」を立ち上げ、映像コンテンツ教育について、情報発信と啓発活動を続けている。