連載侑加先生のお悩み相談室
先生に特有のお悩みから、ワークライフバランス、キャリアデザインまで。「他の学校はどうなんだろう、他の先生はどう考えているんだろう……」と思ったら、学校の現場にも詳しい侑加先生に相談してみませんか?
\あなたのお悩みも相談してみませんか?/
今回は、「先輩教員との関係性」についてのお悩みです。
私の指導のため日々叱咤激励をいただけるのはありがたいことですが、ときには一言物申したいこともあります。
先輩教員の気分を害することなく、学生の率直な気持ちを理解してもらうにはどうしたらいい?……侑加先生に聞いてみましょう!
目次
【今回のお悩み】先輩教員に指摘したいけど言いづらい
相談者:中谷先生(仮名)[男性・30代]
医療系専門学校で教員として勤務し、クラス担任をしています。
私が担任をしているクラスの学生の授業態度が悪い。指示通りに動かない。と科目を担当していただいている他教員(大先輩)から毎週のようにご指摘を頂いています。
その他教員の授業の雰囲気などを学生に確認すると、学生には学生で言い分があるようです。
例1)言い方がきつく、指示ではなく命令のように聞こえるから嫌だ。
例2)自分は授業に遅れてくる。もしくは授業が押して授業終了時間になっても何も言わずに淡々と授業を継続する。
などなど…
もちろん学生にも非があると思いますが、授業を行っている教員にも問題はあるのかなとも思っています。
現在、中間的な立場で調整を行っていますが、学生と大先輩の教員が話し合い、お互いに抱えているストレスを納得するまで話すことが必要なのでしょうが、なかなか、私が大先輩に向かって「こうするともっと良くなると思います。学生と向き合ってはいかがですか。」などとは言えない状況です。(ここが私の悪いところでもありますね…)
このような状況でどのように対処すればよいのでしょうか。クラスの問題、担任の問題、科目担当の問題、学校全体の雰囲気の問題。色々と問題点は思い浮かぶのですが、改善策がなかなか思い浮かばず…
ご助言いただけると幸いです。
以上が今回のお悩みです。
それでは侑加先生の回答をご覧ください!
大先輩の教員に改善の自覚を促し、努力していただきましょう
中谷先生、貴重なご相談をいただき、ありがとうございます!
私自身も担任を務めていたとき、同じような悩みを抱えた経験から、「分かる、分かる」と頷きながら拝見しました。「中間的な立場で調整」と冷静にご自身の立場をわきまえていらっしゃる姿勢、立派だな~と思います。でも、大先輩の教員と学生達に挟まれ、苦しい思いをされているのではないかと心配にもなります…。
年齢や受講対象者に応じた指導を
専門教育を行う機関として、幅広い視点で考えると、年齢や受講対象者に応じた指導ができることも力量の一つと言えます。
幼児を対象としたスイミングインストラクターは、水泳の技術指導ができることは当然ですが、幼児教育のノウハウを持っています。子ども英会話の講師も同様で、英語のスキルが高いだけでは、仕事になりません。幼児や生徒に笑顔を向け、今日の体調を把握し、やる気にさせて、楽しみながら技術を習得できるように接していきます。厳しいだけの指導では、子ども達は、離れて行ってしまいますよね。
専門学校生には、高校を卒業し、18歳で入学する学生が多いでしょう。30代の中谷先生は、来年1つ年齢が上がりますが、入学生は変わらず18歳です。すると、長く働けば働くほど、年齢差はどんどん大きくなり、感覚の差も開いていきます。中谷先生から見て、大先輩の教員ということは、もう学生とは多くの点で、感覚が違い過ぎるのではないでしょうか。お互いの歩み寄りが無ければ、成立しない関係とも言えるでしょう。
大先輩の教員の様子、「言い方がきつい」「授業に遅れてくる」などは、30年前くらいにあったケースではないでしょうか。失礼ながら、「昔の先生だな~」という印象を持ちました。学校として、早急な改善を試みないと、時代遅れの教員がいて、学生達は授業に満足していないと噂になってしまうかもしれません。
SNSで簡単に呟き、拡散される時代です。学生の母校の高校にも、「あの学校には生徒を送れないな」と思われるかもしれません。親御さんも、「そんな学校には、安心して子どもの将来を預けられない」と思われるのではないでしょうか。
学校全体で、FD(ファカルティ・ディベロップメント)に取り組みましょう
文部科学省が大学設置基準の一つとして義務化している、FDをご存知でしょうか。ファカルティ・ディベロップメントの略称です。
大学の授業をより良くしようというもので、教員の研修会実施など、いくつかの項目が掲げられています。小・中・高校も、今では主体的な学び、アクティブラーニングが奨励されています。ICT教育が導入され、昔のように教員が一方的に知識導入ばかりをするような授業は確実に減っています。
高校を卒業し、大学へ入学する18歳の学生達は、積極的に自分の意見を述べる教育を受けてきています。校則も自分達で改善しようと全校アンケートを行い、生徒会活動を経て、改革してきています。大学入学後も、1年生から、半期の授業終了の頃には、アンケートに答えて、教員の教え方などを評価しているのです。
教員には、「シラバスに添った内容が実施されたか」「教員の教え方や教材は適切だったか」などの項目について5段階評価がフィードバックされ、その内容に対し、教員側は「今後どのような改善を試みるか」を大学側へ伝えなければいけません。この一連の結果が、インターネットで公開され、誰でも閲覧できるようになっているのです。
専門学校でも、同じような仕組みを導入すべきときが来ているのではないでしょうか
学生が授業や教員を評価するなんて、30年前には考えられませんでした。昔の先生は、よく遅刻してきました。授業終了時間になってもダラダラ続けていることもありました。学生がしっかり聞いているかなどはお構いなしで、自分の立派な知識や経験を自慢話のように続ける先生もいました。学生の方も、高校時代まで、「先生は偉い人で、とにかく入試を突破するために知識を覚えればいいのだ」と思い込んでいたように思います。
しかし、今はネットの発達もあり、多くの情報が得られます。時代が変わりました。若い学生より、大先輩の教員が偉いということは、全くありません。一人の人間対人間です。若い学生達を、これからを生きる大切な宝と考え、人生を少し先行く先輩は、学生の精一杯の成長を促せるよう、接していく必要があるのではないでしょうか。
大学でのFDの一環として授業アンケートが始まったとき、嫌がる教員が大勢いました。今もいますし、私もできれば避けたいです。「早口だった」「他の教科との重なりがあった」などと批判を受けて、随分落ち込んだこともあります。
でも、よく考えれば、独りよがりになってしまわないための処方箋のようなものなのですね。それに、アンケートも長年の習慣になれば、こういうものだと受け止められます。定年を迎える教員もいて、働く人も変わっていきます。考え方も時代に即していくしかないですよね。
FDが始まった頃から、企業の研修に行けば、研修会アンケートなどと称して、受講社員に評価や感想を求めるようになりました。この評価を基に、次の研修会を企画するのです。企業側にしてみれば、費用を払って実施していますし、社員には仕事の手を止めさせている間も給料を払っているのですから、当然ですよね。対価を払ってでも価値のある研修でなければ、全く意味がありません。
裸の王様にならないために
ある式典に参加したときのことです。民間企業の役員、銀行の支店長、教員など多様な職種の方々がいらっしゃいました。民間企業の方々は、スピーチの持ち時間を超過するということがありません。概ね、3分、5分と決められた範囲で終えるよう準備されています。
しかし、教員の話は長くて、会場全体がシラケてしまったのです。そのとき「先生は困るねぇ…」という小声も聞こえてきました。学校は閉鎖された世界で、常に教える側にいる教員は、自分が偉い人であるような錯覚を覚えます。「『その場を構成する社会の一員である』という謙虚な気持ちでいないといけないな」と痛感した瞬間でした。そうでなければ、裸の王様になってしまいます。
大先輩の教員が、社会から取り残されてしまわないためにも、学生の意見を募り、共に改善、改革する姿勢を持ってもらえるように、学校全体で働きかけてください。そうした仕組みを作ることで、中谷先生が一人で悩まないようにしていただきたいのです。医療系専門学校は、日進月歩する医療の世界へ学生を導く重要な使命があります。人の命を預かる現場です。時代に応じた柔軟なマインドが必要です。
今後、大先輩の教員が難色を示した場合、自ら退職されるかもしれません。その場合、教員数の不足で問題が起こるかもしれません。歴代の卒業生や、学校の指針を示した上で、地元の病院などにも非常勤講師を派遣してもらえる体制を常に整えておきたいですね。学校の発展には必要な準備でしょう。くれぐれも、専門学校が時代遅れにならないようにしたいです。
高齢化の時代に、医療系の現場で働くという現実を伝える好機でもあります
少子化の時代で、子ども一人一人を大切に育てる家庭が増えました。働く両親がいれば、サポートするおじいちゃんおばあちゃんを含めて、家族全体で子どもの未来を応援します。高卒で働かせるのは可哀そうと専門学校入学を支援する場合もあるでしょう。
子どもは社会の宝ですが、幼い頃から、一人の消費者、お客様にしてしまう傾向が強くあるように思います。早くからスマホを持ち、オシャレもして、海外旅行もと、働く大人と変わらない生活をする子どももいます。
専門学校にも、必死で勉強するために来る学生と、親に頼まれたから来たという甘えた気持ちの学生がいます。学費も高額ですし、「お客様なんだから、大事にしてもらって当然、先生にも寄り添ってもらって当然」という学生も見受けられます。
就職すると立場が変わります
学生たちは資格を取って、医療の現場に就職すると、急に患者さんに寄り添う側になることを求められます。患者さんでなく「患者様」と呼ばせる病院も多いです。少子高齢化の時代、患者様は高齢者が多いのが現実です。
優しい方もいますが、医療を受ける必要がある方は、自分の病気やケガで精一杯で、医療者側を気遣う余裕などありません。ついつい言い方もきつくなります。男性の声は低い方が多いですから、本人は意図しなくても、命令口調のように聞こえてしまいます。患者様の言い方に腹を立てたり、傷ついたりというのは、よくあることのようです。
病院も、経営できて初めて存続できます。地域の人々に支持されなければいけません。受付スタッフ、看護師、臨床検査技師、放射線技師、医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など、国家資格を持つスペシャリスト達までも患者様の答えるアンケート集計を見ます。そして、接遇面で十分なホスピタリティが発揮されていたか、言葉遣いや振る舞いで改善すべき点はないのか、検討や改革を求められます。働く現場は厳しいのです。
学生も成長していく必要があります
大先輩の教員が学生を指示通りに動かせないのは、本人の力量不足であることは明白です。しかし、学生は動かなかったら、学習も身に付きません。看護師の先輩には、キツイ言葉で指導をする人がいるかもしれません。
言い方を気にして、その内容を受け止められなければ、仕事ができるようにはならないでしょう。自分達の貴重な学習の機会を放棄すべきではありません。それでは、幼稚な子どもと同じですよね。気に入らない物言いをする人がいる現実を受け止め、しなやかに対応するコミュニケーション術を身に付ける機会だと割り切ってはいかがでしょうか。「こういう言われ方って不愉快だな、でも、やるべきことはやらないと」と自己コントロールすることで、更に一つ大きくなれます。
学生は、3月31日まで学費を払っている立場上、お客様のような気持ちでいるかもしれません。ですが、4月1日からは、お客様に配慮する側になります。たった1日で人間は変われません。日々の授業やインターンシップ、就職活動を通じて、徐々に成長を促す必要があります。
中谷先生は、大先輩の教員を名指しで批判するような言動は控えた方がいいと思いますが、「世の中には、色々な人がいて、自分に都合のいい人ばかりではない」「自分達の学習の機会を最大限活かす」「医療の現場は厳しい」ことを伝えていくようにされてはいかがでしょうか。
最後に
今、十分に担任業務を果たされているので大変だと思いますが、先生一人で悩み過ぎず、学校全体で仕組みを作り、改革に取り組めるよう、上司に相談してみてくださいね。中谷先生が笑顔でいると、学生は幸せです。いつも応援しています!
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侑加先生
一般企業を経て、専門学校に正教員として勤務。
現在は、企業・大学講師、小中学生の塾経営。
趣味は、お笑いと高校野球、旅行。一児の母。