連載授業アップデートテクニック
変化する学生のニーズ、技術やツールの進歩、多様性の受け入れなど、常に進化が求められる現代の教育現場。授業をアップデートしなくてはいけない時期が到来しています。この連載では、教員向け研修や教員志望者の育成を行う「RTF教育ラボ」の代表で、年間300もの授業観察を行う教育コンサルタントの村上敬一さんから、専門学校の先生に向けた「令和の授業テクニック」を教えてもらいます。
夏休みが終わって時間がたち、学生の生活リズムも落ち着いてきた頃ではないでしょうか。さて、今回のテーマは『指導スキル(2)~学生の思考力を鍛える「発問」』です。「発問」と聞いて、先生方はどんなイメージを持たれましたか。
「専門知識を伝えるだけだから発問は必要ない」
「指名して答えさせると学生が嫌がるから…」
「寝ている学生を起こす手段として利用するかな…」
そんなネガティブな意見をお持ちの先生もいらっしゃると思います。実際、日本の専門学校や大学の授業において、グループワークやプレゼンなどは増えてきたものの、「発問」は重要視されず、ほとんど行われていないのが現状です。
実は私も10年ほど前、初めて担当する大学の初回授業の前、その大学の事務局職員から授業の注意点の説明を受けました。その中に「学生個人を指名して答えさせない」という項目がありました。理由を尋ねたところ、「答えられない場合、恥をかいて授業に来なくなる可能性があるから」と言われました。このようにルールとして「指名して答えさせない」と言われてしまうと、発問自体を避けてしまう先生方も少なくないと思います。
さて、本当に専門学校や大学の授業において、発問の重要度は低くて良いのでしょうか。ここで改めて「専門学校の授業における発問」について、私の考えを述べていきます。
目次
そもそも「発問」とは
まず「発問」とは何かについて、明確にしておく必要があります。調べてみるといろいろな定義がありますが、今回は、「学生の思考や活動を促すための問いかけ」を「発問」とします。
ほとんどの場合は口頭での問いかけになると思いますが、最近ではGoogle フォームの質問機能などのICTを活用して、全員に問いかけることも増えてきています。単なるアンケートのような質問ではなく、学生が充分に考える必要がある問いかけであれば、こちらも「発問」だととらえてください。最近では答えが1つに決まらない、一問多答型の問いかけも増えています。
専門学校の授業における「発問」の目的
「人生100年時代の社会人基礎力(図1)」をご覧ください。専門学校の学生たちは、卒業後すぐに社会人として働くことがほとんどです。そのため学習目標(ねらいと達成行動)は、「人生100年時代の社会人基礎力(図1)」を前提に組み立てていくことは、前々回の『講義中心の授業における「授業構成」』でもお伝えした通りです。専門学校の授業は、社会人になったときに役立つ力を身に付けさせるためにあるべきであり、「発問」もその目的を達成するための授業スキルといえます。特に、「人生100年時代の社会人基礎力(図1)」にある「3つの視点」内の「どう活躍するか【目的】」及び「3つの能力」内の「考え抜く力」を、効果的に学生に身につけさせるため、必要な授業スキルの1つが「発問」であると私は考えます。
「発問」の効果を高めるために
いくら質の良い発問でも、学生の心構えが原因で思考を促すことができないのであれば、効果はあまりありません。例えば、発問中に学生が寝ていたり、ゲームなど別のことをしていたり、自分には関係がないと思っていたりすることなどがこれに当たります。
この現象の多くの原因は、自分には関係がないし役に立たないという「当事者意識」の欠如、また、将来の何のために行うのか理解できていない「目的意識」の欠如です。 では、どうすれば当事者意識や目的意識を持たせられるのでしょうか。以下の3つの工夫が考えられます。
(1)発問を始める前の指示もしくは簡単な事前説明
私が授業の観察をする際によく見かけるのが、学生の授業態度(授業に対する心構え)を無視した「唐突な発問」です。
残念ながら、専門学校や大学の学生の多くは「明確な目的はなく、なんとなく」「友達と一緒にいるため」「サークルなどの行事のついで」「休むと親がうるさいから」などを理由に授業へ参加しているといっても過言ではありません。「将来に必要なスキルをこの授業で身につけるぞ!」という目的意識や当事者意識を持って授業に臨んでいる学生は、少ないのが現状だと考えられます。この状況でいきなり発問したとしても、効果は低いはずです。
(2)「わかりやすい指名」もしくは「先に指名」はしない
こちらは専門学校の授業に限ったことではなく、小学校や中学校、高等学校の授業でもよく起こることです。
「わかりやすい指名」とは、日付と出席番号が一致する学生に答えさせたり、座っている座席の順番で答えさせたりすることです。
「先に指名する」場合の例としては、寝ている学生を起こそうとして先にその学生を指名してから発問したり、特定の学生に答えさせたい意識が強いために、先に指名してから発問したりする場合などがよく見られる現象です。
先に指名したり、自分が当たらないとわかった指名方法だったりすると、指名されない学生は「自分のことではない」と無意識に思ってしまい、考えなくなってしまうことが大きな弊害となります。
いずれにしても学生側の成長のためというより、教員側の都合になっていることが多いのです。
専門学校の授業において、「指名して答えさせること」が難しい場合は、Google フォームの質問機能などのICTを活用して「全員回答」を基本ルールとすることで解決できます。
(3)発問の言葉の活用
「発問」のことを書籍やネットで調べてみると、「発問の言葉」が数多くあることがわかります。全てを覚えて授業で活用しようとしても、教員側が混乱して終わってしまうことがほとんどだと思います。そこで、専門学校の授業において、特に活用できる6つの言葉に絞ってお伝えします。
発問の言葉 | 活用方法 |
---|---|
「そもそも○○は何のために」 | 目的を確認する発問 |
「そもそも○○とは何」 | 定義を確認する発問 |
「なぜ(どうして)○○と考えたのか」 | 思考の理由や過程を確認する発問 |
「AとBを比較すると違い(共通点)は何」 | 違いや共通点の気づきを促す発問 |
「もし○○だった場合はどうなると思う」 ※例:もしAが加わるとしたら/もしBが使えなかったとしたら/もしCに〇〇と言われたら等、ケースを変えた発問のこと | 別条件と仮定した場合のイメージを促す発問 |
「ほかに同じようなものは何がある」 | 類似するもののイメージを促す発問 |
まずはこちらの6つの発問を意識して、授業で使ってみてください。継続することで学生の思考や意識が変わってくるはずです。
「発問」の具体例
今まで伝えてきたことを活用した、専門学校の授業における発問の具体例を示します。
(1)教科書/参考書の用語についての発問例
教科書〇ページの5行目から12行目を、まず30秒程度で黙読してください。はい、スタート。
(学生全体の様子を確認する)
そこには「○○をする場合は△△を加える」と書かれています。まず、それは何のために行うのか、目的を考えてノートに記入してください。
(机間指導)
次に、△△以外を加えるとしたら、何が可能だと推測しますか。理由も考えて、いくつか候補をノートに記入してください。
(机間指導)
では、意見をホワイトボードに書いてもらいます。指名された方は前に出て意見を書き込んでください。
(2)ペア(グループ)ワークを活用しての発問例
はい、今から説明するので、いったん行っている作業をやめて聞いてくださいね。この後、ペアワークを行い、いくつかのペアに考えを発表してもらいますので、そのつもりで話し合いをしてください。
(一旦、間をとり学生全体を見渡す)
一度こちらのパワーポイントの写真を確認してください。
Aの写真とBの写真は、ほとんど同じです。ですが、Bの写真の方が圧倒的においしそうだと感じます。なぜでしょう? 何か理由があるはずです。細かな違いを見つけて、なぜおいしそうだと感じるのか理由を2人で協力して探してください。時間は1分です。はい、始めてください!
(机間指導)
では、意見を発表してもらいます。指名された方は、話し合った意見を発表してください。
(3)ICTツールを活用しての発問例
今から1枚の写真(図2)を送りますので、開いてください。開いたら指示が書かれています。まず、その指示を黙読しましょう。
この写真は「妻と義母(娘と老婆)」というだまし絵です。見方によって若い女性と年老いた女性の2パターンが見えると思います。
※見えない場合は近くの人に教えてもらってください。
指示1:なぜ2人とも女性と判断できたのでしょうか。
判断の理由を書き込んでください。
指示2:なぜ年齢の差を判断できたのでしょうか。
判断の理由を書き込んでください。
指示3:なぜ横顔や後ろ姿から判断できたのでしょうか。
判断の理由を書き込んでください。
指示は読みましたか。では、これから5分間各々考えて、考えを記入してください。今回は個人作業です。周りとの相談は不可です。個人で考えて下さい。では始めてください!
まとめ
今回は専門学校の授業において、なかなか活用されていない「発問」についてお伝えしました。私個人としては、学生の思考力を鍛えるためには「発問」は欠かせないものだと考えています。この機会に是非、授業内で「発問」を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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村上 敬一
RTF教育ラボ代表/教育コンサルタント/東京都杉並区内中学校学校運営協議会委員
全国の公立および私立の小学校・中学校・高等学校、専門学校、塾などで教員研修、講師研修、授業や学級経営を中心とした教育全般に関するアドバイスを行う。また、現在まで18年間に渡り、毎年約150名の教員志望者を育成。年間の授業観察数は300を超え、これまでに約5000の授業を観察している。
RTF教育ラボ(https://goseminarcourse01.wixsite.com/rtfkyouikulab)